(4)
『魔球』
意味。何でもあり(笑)
今日の相手投手は魔球を投げる。その名も「呪い球」
鈍い球なら歓迎だけど呪われた球と来た。これが実際凄い。まったく手が出せない。恐いんだもん。6回まで魔球ひとつで抑えられてしまった。このままでは完全試合だ。
しかし今日は古森兄弟も調子がいい。二人でサードとピッチャーを交替しながら投げるのはいい作戦だ。兄弟で逆投げ。球威の兄。キレの弟。でも二人揃って一番キレたのは俺だって。
とにかく、お互い無得点で7回の表。我らの逆襲が始まる……予定だ。
1番、一浦一茂(かずうらかずしげ)。俺は彼が1番を打つために生まれたと確信している。だって、ねえ?
対するは、魔球の持ち主、黒猫香良洲(くろねこからす)。思わず突っ込みたい名前に全員でわくわく。しかし、中身はシャレにならん強さだった。
反則。そう呟いたのは紗夜ちゃんだ。今日も可愛い。
呪い球とは、球自体は普通で、むしろ打ってくれといわんばかりの鈍い球だ。ただ、怨霊が付いてくる(憑いてくる)けど……。
って、無理だよ!
しかも向こうのマネージャー、巫女さん衣裳着てる。
…ある意味ストライクです。
「すっとら〜いくばったぁあぅ!あぅあぅ!あ〜ぅ!」
あぁ、いつのまにか一浦がアウトになってる。それより審判のテンションが高いのが気になる。
いかんいかん、試合に集中しなきゃ。すぐにふざけるのが俺の悪い癖だ。
「呪い球破れたり!」
2番打者の城東靖(きとうやすし)が叫ぶ。
「どうした城東?」
「おっけ〜い、まぁ下半身中心に見てて下さいよぉ」と打席に向かう城東。
(……あれ?)
ユニフォームがエナメル素材っぽく見えるのは俺だけ?
「ばっちこ〜い、呪い球ふぅ〜」
挑発してる。恨まれたらどうするんだ?。ああ、予告ホームランまでして本当に大丈夫か?
黒猫香良洲が呪い球を投げる。挑発が効いているのか怨霊が増えてる。おい、城東。本当に任せていいんだな?いいんだな?
てっきり腰でも振るかと心配したら、ここで城東がお経を唱え始めた。城東だけに祈祷か。
なるほど!
バカなんだな。
しかし、これが正解だったらしく呪い球から怨霊達が消えた。マジかよ。
呪い球がただの鈍い球に変わった。絶好球!
「もらったぁ!」
城東が叫びながらフルスイング。あれ?霊が戻ってる。
城東はバットの芯でボールを捕えた。確かに捕えた。完璧な当りだ。でも何で球は真下に跳ね城東にぶつかるんだろう?これが呪い球の真の恐怖か?
自打球が直撃し、うずくまる城東。みんなで駆け寄る。
「大丈夫か城東」
「き、○頭に当たった…」
…きとうだけに?
下ネタは駄目だって……。
試合は一時中断。
バカは病院に運ばれた。出来ればそのまま人生から退場(フェードアウト)してくれ。
城東の代打には、台田大護(だいだだいご)が送られた。絶対代打が天職だ。だって、ねえ?
「大護、打席に立つ前にアドバイスだ」
おお、古森の助言だ。今まで何度助けられたか。
「お経は最後まで唱えるんだ。途中でやめるなよ」
確かに。あのバカは打つ瞬間、お経をやめていた。さすが古森。今度こそ期待が持てそうだ。
打席に立つ台田。だから予告ホームランはやめろって。
やっぱりお経の効果は抜群で、台田は鈍い球を打った。打球が伸びる。本塁打だ。
「よっしゃあ〜」と、台田が笑いながらベースランニング。
笑いながら?
…嫌な予感。
案の定、飛んでる球に怨霊が集まり、空中で止まった。
す、すげぇ!物理法則を無視したぞ。
そして、止まった球がこちらに向かって来た。
「危ない!」
俺は高野をボールから守るため突き飛ばした。ボールは高野をかばった俺の頭を直撃。
ど一ん!
あぁ、明日の新聞のどこかに『高校球児、打球で死』なんて見出しが出たりするんだろうか?いやだな。
薄れゆく意識の中で、俺は黒猫香良洲を見た。こんな状況には適さない、怪しく妖しい笑みを浮かべていた。
もしかして、俺も怨霊となって呪い球の一部になってしまうのか?
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだい〜や〜だ〜
ど一ん!と、ベッドから落ちて目が覚めた。
「いてて、夢かい」
当たり前だ。あれが現実なら世の中楽しすぎる。大体、うちの野球部に一浦も城東も台田もいないし。都合よすぎる名前だったな。
何か損した気分。どうせなら最後まで……いや、無理か。頭直撃だもんな。
それにしても、なぜ高野を助けたんだろう?紗夜ちゃんならともかく。
まあ、いいや。めんどくせ。…こればっかだな。
(5)
練習試合当日。天候、晴。みんなノー天気だからね。ハレルヤ、ハレルヤ。
せっかくのホームゲームだ。罠でもしかけるかな。ブーブークッション。いや、やめておこう。恨まれたら嫌だ。黒猫香良洲。夢とはいえ、インパクト強すぎ。おかげで、今朝の目覚めは悪かった。
試合前のミーティング。大事な話は監督と古森が全部やるからつまらん。無駄に緊張する一年もいるし。初めてなんだからもっと楽しもうとは思わないかな?
最後にようやく俺が話す番になった。
「はっきり言おう。俺は野球より野球拳が好きだ」
すこ一ん!
待ってましたとメガホンで素早くかつ最高のタイミングで突っ込む高野。
これ恒例行事。
緊張をほぐすのが目的だから何言ったっていいんだけど。以下、過去の第一声より抜粋。
「送りバント始めました」
「お前はすでに、送っている」
「しゃるうぃばんと?」
当時はバントネタに凝ってたからそんなんばっか。失礼しました。
「え〜、まあ冗談はさておきね。野球部が新体制になり、初めて他校との試合が実現しました。わかっているとは思いますが、もうすぐ夏の大会が始まります。負けたら三年は即引退。寂しいねぇ、これからって時に。諸先輩方には悪いけど、俺は今が過去最高のメンバーだと思う。何がいいたいかと言うと、一戦一戦を大事にして欲しいのよ。一瞬一瞬が二度とない瞬間で……」
「うほん、ぉほん」
監督が早く終らせろって。仕方ない。これも恒例行事。みんな笑ってるわ。これならもう大丈夫かな。
「では最後に。怪我に気を付け勝つぞ」
ひとまず、試合まで自由時間。体動かすかな。
「松君」
「おう、高野。何笑ってんだよ」
「部長らしい松君見たの久しぶりだなと思って」
「失礼だな、それ気にしてるんだぜ」
「大丈夫よ。みんな松君が部長でよかったって言ってる」
「俺もお前がマネージャーで良かったよ」
「…………」
「な、なんだよ」
「松君って不思議」
「何が」
「優しいのか冷たいのかわからないんだもん」
「ちょっと待て。俺がいつ冷たくしたよ?」
「メールじゃいつも冷たいじゃない」
「メール?俺はいつもお前が送ってくるネタを真剣に考えて返信してるぞ」
「ネタってなによ」
「だってお前、俺に送ってきた最初のメールが謎掛けだったろ?あれ以来お前のメールは裏の裏まで推理してだな…」
「…………」
「なんだよ、その痛いものを見るような目は?」
「…わかった。今度からは電話にするね」
何だか諦めた表情で高野は行ってしまった。俺何か悪いことでもしたか?
「部長」
「ん?紗夜ちゃん。いつの間に?」
「探偵とは神出鬼没なんですよ」
「それはどっちかというと怪盗じゃないか?」
紗夜ちゃんとは、あのドッキリ以来仲が良い。
「探偵です!これからは探偵も神出鬼没なんです」
「それはいいんだけどさ。何でそこまで探偵キャラにこだわるの?」
「これからの為です」
「これから?意味深だね」
「野球部を辞めた後の事ですよ」
「あぁ、そうか。何とかならない?高野も引退するし、またマネージャーがいなくなっちゃうよ」
「そうですね、何とかしましょうか?」
「続けてくれるの?」
「違います。要は新しいマネージャーが来ればいいんですよね?」
「そうだけど、変な噂が流れてるからみんな敬遠してるんだよね」
「任せてください。噂は得意分野ですから」
「じゃあ任せた。噂屋探偵」
「了解しました」
何だよこれ?部長とマネージャー、先輩と後輩の会話じゃねえよな。ま、いいか。
「それより何か用があったんじゃないの?」
「あぁ、そうです忘れてました。マネージャーといっても私に出来ることないんで、相手の情報を仕入れてきました」
「マジ?どんな情報」
「まず相手投手なんですが、名前がくろね…」
「ちょっと待って」
「何ですか?」
「黒猫香良洲?」
「何ですそれ?」
「今日の相手投手の名前、黒猫香良洲じゃないの?」
「そんな名前の人いるわけないじゃないですか」
一蹴されてしまった。
「黒根さんです。去年も対戦してるはずですよ」
「黒根?黒根…」
言われてみればそんな気がする。去年負けた相手が黒根だったか。それなら夢に変な形で出てきてもおかしくないな。
「ところで黒猫烏って何ですか?ずいぶん不吉な感じしますけど」
「ん?あぁ。夢に出てきたんだよ」
俺は今朝見た夢を紗夜ちゃんに語った。もちろんバカ城東のシーン辺りは削除したけど、これが予想以上に大爆笑されてしまった。
「部長おもしろすぎ。あ〜お腹痛い」
笑いながら行ってしまった。元気な子だな。
ていうか、試合まだ?
「松」
「あん?今度は古森か」
「今度はってなんだよ?」
「こっちの話だ」
「よくわかんねぇ野郎だな。まあ、いいや。松」
「なんだよ?」
「勝とうな」
「当たり前だ。今日は勝つぞ」
「今日だけじゃなくて、ずっと」
「去年の一回戦敗けが良く言えたもんだな」
「去年はお前がいなかった。今年はお前が居る。この違いは大きい」
「そりゃどうも。期待に答えられるよう頑張るよ。それより、なぁ古森。いい加減教えてくれよ?」
「だからお風呂は42度だ」
「あぁ、いい湯加減だ。って違うだろ!」
古森。俺に乗りつっこみさせるとはさすがじゃないか。
「お前ほどの男が何でうちみたいな学校に来たんだよ?野球部弱いし、偏差値だってお前と10は違うんじゃないか?」
「それ、聞きたい?」
「ああ、ぜひ聞きたいな」
「がっかりするぜ」
「なんだよ、教えろよ」
「間違えたんだよ」
「は?」
「だから、間違えたの」
「何を?」
「答えを書く欄」
「だから何?」
「公立の試験に落ちたんだよ。ギリギリ合格できる予定だったんだ俺のなかでは。痛恨のミスだよ」
「ん?もしかして滑り止めか?」
「ああ、もしかしてだ」
「他の私立受けなかったのか?」
「受けたよ。公立ギリギリだったからさ。乍寿と荒学かな」
「マジ?受かったの?」
「うん」
乍寿と荒学なんて超進学校じゃないか。確か野球部は無かったけど。
「古森。お前後悔してないか?」
「少しな。でも、野球やりたかったし。乍寿と荒学じゃ野球出来ないからな」
「そうか…」
「おい松、そんな顔すんなよ。俺はここに来て良かったと思ってるぜ。お前に会えた。俺の高校生活お前に捧げて良かったよ。甲子園絶対に行こうな!」
古森は走っていった。恥ずかしそうな顔で……。古森、お前やっぱ最高だぜ!涙出てきた。
「部長、何泣いてるんですか?」
「ジュニア〜。お前の兄ちゃん最高だよぉ」
古森(弟)に今の美談を更に美化して聞かせてやった。
「部長、それ嘘ですよ」
「またまた〜、もう騙されないぞっ」
「だから騙されてますよ」
「騙されないぞ!」
「じゃあ、乍寿と荒学受けながらどうしてここを受けるんですか?」
「だま……されてる!」
古森。あんにゃろ〜。俺の涙返せ。
俺は古森(弟)に八つ当たりした。許せジュニア。恨むならお前の兄貴を恨め。
それにしても。
ドッキリ、夢、嘘。
オチがワンパターンじゃないか?
以下、次回。本当に終わるのか?
もしコメントしてくれる方がいるならばコメントの場までお願いします。
[0回]
PR