気がつくと今年最初の雪が僕の上から降り始めていた。
「どうりで寒いはずだよ。」
どこか自嘲じみたように、僕は言葉を吐き捨てた。
言いたくても言えない言葉が人にはある。
相手と自分との関係を壊したくない、嫌われたくないからなどという理由から言葉を飲み込んで自分自身に負担をかけていく。
それと同じように僕の中で、書きたくても書けないという現象に陥ってしまった。
売れっ子の小説家でも何でもない僕なので人に言わせればどうでも良いと思われるのだろう。
しかし、僕の中では重要なことなのだ。
『決して物語(ストーリー)を書きたいのだけれどもネタがないから書けない』というわけではない。
『物語のさわりも、どのように進んでいくのかもある程度考えてある。だけど、これを書いてしまったら僕の中の何かが壊れてしまうのではないか』ということから書けないのだ。
「さすがにこんな平日じゃ乗客も少ないか…」
高速バスに乗り込み、窓際の指定された座席に着く。
原点回帰とでも言えば格好良く聞こえるのかもしれない。
何をしても心のどこかで満たされなく、笑い続けることに疲れた僕は、突然昔住んでいた土地に行くことにしたのだ。
バスのドアが閉まる音がし、ゆっくりと発車する。
さぁ…
「迷走の旅の…始まり始まり。」
第1話 なぁ
[0回]
PR